『続西遊記』は、存在は知られていても、実際に目にした人の少ない作品でした。
江戸時代、滝沢馬琴が読んで「続西遊記国字評」(今だったら外国語の本のレビューとか書評とかいう感じでしょうか) を残しています。
しかし、翻訳はまったく出版されず、それどころか、中国では一時失われていて、魯迅も、他の文学者も著書に存在は書いていても、「未見(未読)」、つまり幻の作品になっていました。
やがて原本が発見され、孫楷第『中国通俗小説書目』に、「同治戊辰漁古山房刊本」について記載があり、1980年代ごろに、それをもとにした活字本が出版され始めました。
ところが、同治戊辰つまり1868年は馬琴の死後ですし、馬琴の「続西遊記国字評」では、表紙の「真復居士」が「貞復居士」は間違いで、「真復居士」だろうと指摘されているのです。つまり、「同治戊辰漁古山房刊本」は、馬琴が読んだ本とは違います。
その後、嘉慶10年金鑑堂刊本が見つかりました。こちらの表紙は「貞復居士」と、文字がかすれており、馬琴が書いた特徴と一致しています。また、年代的にも馬琴が読めたはずなので、嘉慶10年金鑑堂刊本が、馬琴が読んだ本だと考えられます。
影印本を手に入れて読んでみたところ、あの三蔵法師、孫悟空、八戒、沙悟浄が天竺でお経をもらった帰り道の話で、悟空たちは如意棒やまぐわなどの武器(法具)を取り上げられ、仏僧の到彼、道術に通じた霊虚子がお経をそっと見守るという新たな展開。
そして、帰路でも妖怪たちが登場するのですが、悟りを開いた三蔵法師はもう食べられないというので、長生やあれこれの効果抜群という真経をねらってきます。
悟空や八戒など一行の掛け合いも楽しく、 『西遊記』続編としてしっかり楽しめました。
そこで、翻訳紹介しようと思い立ったのですが、100回は大変な分量です。
とりあえず、1回から10回までを、まず『続西遊記 第一巻』(Kindle電子書籍)として発売しました! 物語として楽しめるように、現代日本語に読みやすく意訳し、必要に応じて訳注を入れました。試訳とはあちこち異なります。
今回の電子書籍は、嘉慶10年金鑑堂刊本を底本としています。
ただ、影印は所々つぶれたりかすれたりしているので、流布本を副本として使用しました。
Kindle Unlimited にも入っていますので、まずはちょい読みからでも是非。応援していただけるとモチベーションが上がります。
よろしくお願い致します。
嘉慶10年金鑑堂刊本には、そこそこの数の味のある挿画が付けられているので、適宜挿入しています。表紙に使ったのはその中の一枚、天竺に着いた三蔵一行が霊虚子の屋敷を訪れるところです。
悟空が見えない? ではこちらを。見開きページにずれがありますが、三蔵、悟空、八戒、はっきりわかると思います。この時点ではまだ如意棒とまぐわを持っています。